日本人にとって、とても身近な「海藻」。そんな「海藻」が今、地球温暖化を防ぐ切り札として環境の分野で見直されています。今回は「海藻」が、これから世界で期待される役割や、さらに一歩進めて海洋生態系による「ブルーカーボン」についてご紹介します。
「海藻」がCO2を吸収
「二酸化炭素(以下、CO2)を吸収する」と聞いたとき、みなさんの頭の中には何が浮かびますか? おそらく木や森などを想い浮かべる人が多いでしょう。
では「海藻」が木よりも「CO2を吸収する」といったらどうでしょうか? すぐに「海藻」と「CO2」が結びつかないかもしれませんね。
それでは海藻のなかでも特に炭素吸収に優れているコンブをみてみましょう。実は海藻類のコンブと杉の木の「CO2吸収の効果」を比べてみると、コンブは杉の約4.5倍の「CO2吸収効果」があるといわれています。
“独立行政法人海洋水産総合センターでは海藻のCO2吸収の数値を発表しました。コンブは陸上における杉林(CO2約3,5トン吸収)に対して、16トンも吸収していることが判明した。”(参照記事:ブルーカーボン(海洋生物によるCO2吸収と固定化)・コンブプロジェクト)
コンブは、杉よりもたくさんCO2を吸収しているなんて、本当に予想外ですよね。
さらにコンブなどの大型海藻は、低酸素海域の「デッドゾーン」でも成長が可能。「デッドゾーン」とは、富栄養化した海(自然な状態よりも、栄養分が過剰になること)の影響で、プランクトンが大量に発生。
その結果、酸素が無かったり、酸素が少ない状態になった海域のこと。酸素がなければ、生き物は海に住むことができません。まさに「デッドゾーン(死の海域)」と呼ばれる理由です。
そんな過酷な環境のなかでも、コンブなどの大型海藻は成長できるだけでなく、海の「デッドゾーン」を回復させる力も持っているのです。まさか料理のお出汁界に君臨するコンブ類が、海の救世主かもしれないなんて驚きですよね。
さらに海藻類は、「海洋の酸性化」も防いでくれます。「海洋の酸性化」とは、大気中の二酸化炭素が、海水に吸収されて起きる現象のこと。海の生き物が成長するために必要な炭酸イオンを減らしてしまうため、「海洋の酸性化」は環境への悪影響が懸念されているのです。
“昆布の仲間のような大型の藻類からなる「海のジャングル」は、成長が速く、非常に効率よく炭素を貯蔵できる。また、海藻は酸性化や脱酸素化など、地球温暖化が海に与える影響を緩和することにより、海の生物多様性や、人々の食料をも守ることができる。”(参照記事:海藻は「温暖化対策のカリスマ」、最新研究)
「ブルーカーボン」とは?
そして、このように海藻の藻場など、海洋生態系に吸収されるCO2のことを「ブルーカーボン」と呼びます。木や森など、陸上の植物が蓄積する炭素の「グリーンカーボン」がよく知られていますが、その海バージョンとして、2009年に国連環境計画(UNEP)が「ブルーカーボン」と名付けました。
“国内に目を向けると、 もっとも二酸化炭素を吸収しているのは海藻藻場であり、続いて海草藻場、マングローブ、干潟の順となっている”(参照記事:ブルーカーボンとは)
こうした海藻/海草の藻場や、干潟、マングローブ林などのブルーカーボン生態系が、CO2を取り込み、海底の泥の中にCO2をたくわえることで、大気中のCO2を減らしているのです。
“海洋は、地球表層で最も多くの炭素を貯蔵している場所とされています(IPCC第5次報告書によると海洋で約39兆トン、大気中に約8千億トン、陸域に2~4兆トン)。そのため、海洋と大気の間での二酸化炭素(CO2)交換は、将来の気候変動を予測する上で最も重要な要因の一つです。”(参照記事:都市内湾域の生物活動による二酸化炭素吸収メカニズムを解明)
これまであまり目立たなかった「ブルーカーボン」。これからはブルーカーボン生態系が注目され、人々の取り組みで、生態系の機能を回復できれば、より多くのCO2の吸収が見込まれます。こういった活動が増え、地球温暖化の対策になったり、海の生物が生存できる海洋環境を両立できたらいいですよね。
おわりに
ここまで「海藻」と「ブルーカーボン」についてみてきました。世界の70%は海で覆われています。そして海に囲まれ、沿岸部に大型の海藻場が広がる日本だからこそ、「海藻」や「ブルーカーボン」の可能性に期待が高まります。
(参照記事:ブルーカーボンとしての藻場の評価 に関する最新の国内動向)